●フリーランス進化論
最近会話の中で、“コラボレーション”という言葉をちょくちょく耳にするようになった。(ミュージシャンがよく使ってますよね。)直訳すると「協力、共同」、つまり「協創:協力して新しいものを創造する」というような意味となる。一方、マイナス成長時代を生き残る、サバイバル企業の新たなビジネスモデル(経営戦略)のキーワードとしても、この“コラボレーション”が使われている。
さて、今様に取りざたされている“コラボレーション”。協創という意味なら、私たちクリエイターの世界では、非常に日常的に行ってきている。今回、マイクロビジネスモデル研究会のテーマに取上げたねらいは、フリーランスの自営戦略として考えてみよう、という観点にある。
それではここで独立後の「フリーランス進化論」の一例を、フローで見てみよう。
スタート期:
外注スタッフという位置付けで、受注した仕事を一人で完結して納品。 |
拡大途上期:
信用、実績を積み上げると共に仕事量が増えていく。一人でこなせない時に手伝ってもらう、仲間を確保。(→チームで量をこなす。) |
事業展開期:
クライアントの要望に応えるため、自分の専門以外のクリエイターと連携して、企画から製作までを請け負う。(→ディレクター、プロデューサーのポジションへキャリアアップ。) |
上記のようなプロセスを踏んでいくと、事業展開期には、当然法人化というのも視野に入ってくるだろう。という訳で、経営者への道へ進む人にとっては、最適な進化のとげ方ということになる。
また、この進化をとる要件としては、クライアントの要望や業務内容によって、ネットワークの中から最適な人材を選択し、複数のメンバースタッフを取りまとめて、製作プロジェクトを組織し、全体としての付加価値を作り出していくための高いプロデュース能力が要求される。さらに、上記の図のように、クライアントからは、元請けの立場となるので、リスクマネージメントも必要。
では、事業拡大へ力を注ぎ、経営者を目指すより、創造性そのものを追求して行きたい場合には、どんな進化のプロセスがあるだろうか。
●ネットワーク型ワークユニット
前述の縦型ではなく、ネットワークによる水平型の結びつきにより形成されたワークユニットは、筆者が最も理想とする仕事環境だ。一人の個人が複数のワークユニットに参加するもよし、ワークユニット同士の交流、コラボレーションもあり得るだろう。
ユニット形成期:
構成メンバーがそれぞれ自立、独立して各自の業務にあたり、更に、案件によって協創作業を行う。(メンバー同士は対等な関係。) |
ユニット展開期:
ネットワーク内の各メンバーが、自己の強みを発揮、機動性を保ちならが、案件によって、業務リーダーのプロデュースのもとに、ユニット全体、あるいは部分で仮想的なチームを組み、機能する。業務リーダーは、固定ではなく、案件によって決められる。(ネットワーク内に、同時複数の業務が遂行する場合もある。) |
ワークユニットの構成メンバーに必須の要件は、“自立したプロフェッショナル”であるということ。しっかりとしたプロ意識を持っているということだ。縦型の場合は、クライアントの窓口が、元請けする立場にある人となるが、ネットワーク型ワークユニットでは、構成メンバー全員が、元請けの立場となり、業務リーダーとなり、プロデューサーとなり得るからだ。
≫ここで、ワークユニットを結成し活動している、Webデザイナー/梅田ゆみさんへ取材させていただき、インタビューにお応えいただいた内容を、以下にご紹介したいと思います。
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梅田ゆみさん
Webデザイナー
コモモファクトリー代表
独立クリエーターズユニットMiSCHiO |
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Q: |
メンバーの方々とは、どのように知り合われたのですか? |
A: |
3人との出合いは、
遊びのメーリングリストで友達になった(オンライン)
仕事で人を探しているときに偶然出会った(オンライン→オフライン)
仲のよい友達から紹介された(オフライン) |
Q: |
このメンバーとなら、と思えた決め手は、何でしたか? |
A: |
仕事への価値観、方向性、またプライベートと仕事の比重がほぼ同じであること。それぞれの仕事の能力・経験値がほぼ同列であることでしたね。 |
Q: |
それぞれ役割分担というのは、ありますか? 例えば、営業窓口は誰とか。責任者はとか。 |
A: |
特にありません。皆が同列です。
営業窓口はそれぞれ、仕事をもってきた人間が担当します。ひとりが固定で担当していることといえば、ドメインとサイトの管理を私(梅田)がやっていることくらいです。 |
Q: |
現在、個人と「MiSCHiO」としてのお仕事と、比率はどうですか? |
A: |
WEBデザインの仕事に関して言えば、50/50という割合になってきました。その他はなかなかグループ全体で動くことは少ないのですが・・・ |
Q: |
ユニットを結成して、良かったことと、大変なことをそれぞれ挙げていただくと...。 |
A: |
●良かったこと
一人ではない、ということ。何か困ったとき、たとえば自分には出来ない仕事が、依頼された仕事の中に含まれるとき(=私はデザイナーなのでライティングはできない、とか)や、ふいなことで仕事ができなくなったとき、安心してさっと仕事を依頼できること。またお互いの状況(仕事もプライベートも)をそれなりに把握しているので、依頼時に思いやりがもてる。
堅すぎず(ビジネスライクすぎず)、かといってお友達感覚べったり感覚でもない。意見を感情ではなく、意見としてお互いにはっきり言えるというのもよい関係だな、と思います。
●気持ち的に大変だったこと
このメンバーに落ち着くまでが大変でした。世の中なかなか同じ気持ちで仕事をしている人をみつけるのは大変なんだなと思い知りました。
●仕事で大変なこと
なかなか全員で仕事をする機会がこない。どうしてもユニット自体が法人ではないので、すべてをまかせてもらえる状況になかなかもっていけない。またまかせてもらえそうでも、今度は4人では作業の手が足りないので外注を使う必要が出てくる。日頃付き合いのある人で足りる場合はよいが、そうでない場合、仕事のクオリティを保つことを考えると二の足を踏んでしまう。
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Q: |
将来、法人化はお考えですか? |
A: |
自分達にとってそのほうがよい、と思えるときがきたら法人化をしてもよいね、とは言っています。今はまだそういう時期ではないので全然考えていません。 |
≫梅田さんのインタビューから、ワークユニットを形成し、継続させていくために必須となるポイントをピックアップさせていただくと---。
●メンバーは、仕事への価値観、方向性が同じであることが望ましい。
●メンバーは、仕事の能力・経験値がほぼ同列で、対等な立場で仕事ができること。
●メンバー同士、仕事のパートナーとしてお互いサポートしあうと同時に、意見をぶつけ合えるビジネスライクな面も必要で、そのバランス感覚が大切。
“このメンバーに落ち着くまでが大変でした。”とありますが、正にその通りだと思います。ただ、仕事で得られる喜びの一つに、優れた仲間と一緒に達成感を共有できることがあります。ですから、素敵なパートナーと出合えて協創作業ができる、このコレボレーション自体が素晴らしいこと、と言えるのではないでしょうか。
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